脳神経内科とは
脳神経内科では、脳、脊髄、末梢神経といった神経にかかわる病気を扱います。
脳では、からだの隅々から得られる五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)の情報をまとめて、考え、実行する指令をからだへ出しています。
からだの隅々からの情報を脳へ送るのが感覚神経、脳から体の隅々へ情報を送るのが運動神経です。感覚神経と運動神経をまとめて、末梢神経といいます。
脳や末梢神経に異常が起こると、五感の感じ方に異常が起こったり、感じにくくなったりします。また、手足のしびれ、脱力感、けいれんが起こることもあります。
このような症状はご相談ください(例)
- 慢性的な頭痛がある
- めまい、歩きにくさ、ふらつきがある
- 手足のしびれや、じんじんと痛む
- 手足に力が入りづらい
- もの忘れが多くなった
*具体的な症状は、以下の「認知症」の項をご参照ください
脳神経内科で扱う主な疾患
- 頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛など)
- 脳卒中(脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳出血)
- パーキンソン病
- 認知症
- てんかん
- 顔面けいれん、三叉神経痛
- 脳腫瘍
- 水頭症
- ギラン・バレー症候群
- 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎
- 脳炎・髄膜炎
- 筋委縮性側索硬化症(ALS)
- 脊髄小脳変性症
- 多系統委縮症
- 多発性硬化症
- 重症筋無力症
- 進行性核上性麻痺 など
脳神経内科でよくみる疾患
頭痛
頭痛には、さまざまな原因があります。「今まで経験したことのないような激しい頭痛が突然出現した」という場合には、クモ膜下出血や脳出血などの命に関わる病気の可能性がありますので、すぐに病院を受診しましょう。また、脳腫瘍などの器質的な病気によって頭痛が起こることもあるため、慢性的に続く場合には脳MRI検査が行われます。
脳に器質的な異常がない頭痛(一次性頭痛)としては、片頭痛、筋緊張型頭痛、群発頭痛が代表的です。
片頭痛
片頭痛は、男性よりも女性に多く見られる頭痛です。ズキンズキンとする脈打つような痛みが、頭の片側(ときに両側)に起こり、数時間から3日程度続きます。痛みの原因は、血管の周囲にある神経の炎症や、血管の過剰な拡張などが考えられています。吐き気、光過敏(光をまぶしく感じる)、音過敏(音を敏感に感じる)などの症状を伴うことがあります。
頭痛の前兆として、目の前にキラキラした光が現れて視野がぼやける「閃輝暗点」という症状が出ることもあります。
片頭痛の誘因として、赤ワイン・チョコレートなどのポリフェノールを多く含む食品や、チーズなどが挙げられます。女性ホルモンも片頭痛の発症に関連しており、女性では月経周期に応じて起こることもあります。
片頭痛が起こった場合、涼しく暗くて静かな部屋で横なって休んだり、痛い部分に冷たいタオルなどを当てたりすることで痛みが和らぎます。薬物治療として、発作時にはトリプタン製剤や鎮痛薬、発作の前兆があるときには発作予防の薬が用いられます。
筋緊張型頭痛
筋緊張型頭痛は、頭の周りの筋肉が収縮するために起こる頭痛で、症状としては圧迫されたり、締め付けられるような痛みを感じます。肩や首の筋肉の凝りを伴うことが多いです。
筋緊張型頭痛の誘因として、デスクワークなどで長時間同じ姿勢を取ることや、疲労・ストレスなどがあります。
筋緊張型頭痛の場合は、片頭痛とは逆に痛い部分や筋肉の凝った部分を温めることで痛みが和らぎます。薬物治療としては、鎮痛薬などが用いられます。
群発頭痛
群発頭痛は、片頭痛や筋緊張型頭痛に比べると稀な頭痛で、女性よりも男性に多くみられます。片側の目の奥をえぐられるような激しい痛みが、1~3時間ほど続きます。この発作が数週~数か月の間に繰り返し出現(群発)することから、群発頭痛と言われます。
群発頭痛の発作に対しては100%酸素吸入などが有効です。発作がない寛解期にはカルシウム拮抗薬やステロイドが用いられます。
認知症
以下の「メモリー(もの忘れ)外来」の項目をご参照ください。
パーキンソン病
パーキンソン病は、振戦(手足などのふるえ)、筋固縮(筋肉が固くなる)、無動(全身の動作が鈍くなる)、姿勢反射障害(転びやすくなる)、の4つが特徴の病気です。
正常な人では、神経細胞からドパミンという神経伝達物質が放出されることで、脳の指令をほかの神経細胞へ伝えています。パーキンソン病では、このドパミンが減ってしまうことで、神経が働かなくなってしまうのです。
パーキンソン病の検査では、脳CT、MRIで他の脳の病気がないことを確認したり、MIBG心筋シンチグラフィにより心臓の交感神経の状態を調べたりします。
パーキンソン病の治療では、薬物治療が行われます。L-ドパ(不足しているドパミンを補充する)、ドパミン受容体作動薬(ドパミンが出ているのと同じ状態にする)、MAO-B阻害薬(ドパミンの効き目を長くする)などが用いられます。
パーキンソン症候群
パーキンソン症候群とは、パーキンソン病によく似た症状をきたす病気の総称です。パーキンソン症候群には、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症、血管障害性パーキンソニズム、正常圧水頭症、薬剤性パーキンソニズムなどがあります。パーキンソン病と異なりL-ドパへの反応が不良で、各疾患に応じた治療を行います。
レビー小体病
パーキンソン病の運動障害は、レビー小体というタンパク質が脳幹の神経細胞を傷つけることが原因で起こります。レビー小体は、全身のさまざまな神経細胞にあらわれ、脳の大脳皮質を傷害するとレビー小体型認知症となります。
レビー小体が原因で起こるパーキンソン病、レビー小体型認知症などを総称して、レビー小体病といいます。
メモリー外来(もの忘れ外来)とは

メモリー外来(もの忘れ外来)は、主にご年配の方によく見受けられるもの忘れが、加齢が原因で起きる生理的なもの(=良性健忘)なのか、それとも認知症の初期症状であるのか診断し、治療を行います。
診断の結果、良性健忘であれば問題ありませんが、軽度認知症障害(MCI)と診断を受けたとしても、速やかに薬物療法を開始できれば、症状の進行を抑えることが期待できます。
そのため、最近もの忘れが増えたと感じている方は、一度当院でご相談されることをお勧めします。
また、認知症には記憶障害だけでなく、不安・抑うつ、徘徊、幻覚、暴言・暴力、異食、睡眠障害(不眠・昼夜逆転)、せん妄、妄想、帰宅願望、介護拒否、失禁などの周辺症状も多くみられます。
このような症状も、適切な対処や治療を行うことで症状の現れ方が緩和され、ご本人が穏やかに生活でき、同時にご家族や介護者の負担も軽くなると期待されます。
もし気になる症状がありましたら、ぜひ遠慮なくご相談ください。
まれに、飲んでいるお薬の影響で認知症に似た症状が出ることがあります。
ご受診される際には、現在飲まれているお薬の内容がわかるもの(お薬手帳など)もお持ちください。
以下の症状に心当たりがあれば、一度ご受診ください
- 物の名前が思い出せなくなった
- しまい忘れや置き忘れが多くなった
- 何をする意欲も無くなってきた
- 物事を判断したり理解したりする力が衰えてきた
- 財布やクレジットカードなど、大切な物をよく失くすようになった
- 時間や場所の感覚が不確かになってきた
- 何度も同じことを言ったり、聞いたりする
- 慣れている場所なのに、道に迷った
- 薬の管理ができなくなった
- 着替えや、部屋の片づけができなくなった
- 以前好きだったことや、趣味に対する興味が薄れた
- 鍋を焦がしたり、水道を閉め忘れたりが目立つようになった
- 料理のレパートリーが極端に減り、同じ料理ばかり作るようになった
- 人柄が変わったように感じられる
- ささいなことでも怒りっぽくなった
- 財布を盗まれたと言って騒ぐことがある
- 映画やドラマの内容を理解できなくなった など
良性健忘と認知症の「もの忘れ」の違い
良性健忘と認知症のもの忘れでは、同じように見えて実は決定的な違いがあります。
良性健忘の方は、忘れているのは体験したことの一部のみであったり、本人がもの忘れをしているという自覚があります。
一方、認知症患者さんのもの忘れでは、体験したこと自体を忘れている、自身がもの忘れをしている自覚がないという特徴があります。
さらに認知症患者さんでは、記憶障害のほかにも様々な認知機能障害(見当識障害、遂行機能障害、失行、失語 など)が生じているので、日常生活に支障をきたすようになります。
ただ一見するとわかりにくいですし、良性健忘だと自己判断して、認知症を進行させてしまうこともあります。
もの忘れを自覚している、本人は気づいていなけれどもご家族の方が薄々感づいているという場合は、ご相談という形でもかまいませんので、一度お問い合わせください。
良性健忘
良性健忘は、加齢による年相応の記憶障害です。
認知症との大きな違いは、大切なこと(行為自体)は覚えているということです。
例えば、朝食で食べたメニューの内容は覚えていないが、食事をしたこと自体は覚えているなら、良性健忘になります。
軽度認知障害(MCI)
認知機能とは理解・判断・遂行などに関わる知的な能力のことで、記憶、思考、理解、計算、学習、言語、判断などが含まれます。
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)とは、上記の中の1つに問題は生じているものの、今のところ日常生活に支障をきたしていない状態を言います。
これは、良性健忘とも認知症ともはっきり言えない状態ですが、適切に対処されないと認知機能の低下が進み、その後の5年間で約50%の方が認知症を発症すると言われています。
なお軽度認知障害と診断された時点で何らかの対応(薬物療法による治療 など)をすることで、本格的な認知症の発症を遅らせることが期待できます。
検査の結果、MCIと診断された場合は、速やかに治療(予防)を開始することをお勧めします。
認知症
認知症は、脳の病気や障害によって、脳の正常な機能が低下していき、記憶や思考へ影響がみられている状態を言います。発症すると、物事を記憶・判断する能力、時間や場所・人などを認識する能力が低下していくので、日常生活で大きな支障が出るようになります。
さらに、認知症には中核症状である記憶障害だけでなく、それによって行動・心理面に二次的に起こる周辺症状(BPSD; Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)も多くみられます。周辺症状には、不安・抑うつ、徘徊、幻覚、暴言・暴力、異食、睡眠障害(不眠・昼夜逆転)、せん妄、妄想、帰宅願望、介護拒否、失禁などがあり、症状の出現のしかたは個人差が大きいです。
認知症は、年をとるほど発症しやすく、有病率は65~70歳未満では1.5%程度なのに対し、85歳以上では27%まで上昇します。
ただ若い世代の方でも、脳血管障害や若年性アルツハイマー病によって発症することがあります。
なお、65歳未満で認知症を発症した場合は、若年性認知症と診断されます。
認知症を起こす原因はひとつではありません。
主に4つのタイプ(アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症)が認知症の原因の9割を占めるとされています。
そのうち、全認知症患者の6~7割を占めるのがアルツハイマー型認知症、2割ほどが脳血管型認知症と言われています。
これらの2大認知症の特徴は、次の通りです。
アルツハイマー型認知症
脳に特殊なたんぱく質(アミロイドβ〔ベータ〕など)が蓄積していくことで神経細胞が壊れて減少し、それによって脳の神経が情報をうまく伝えられなくなって、機能異常を起こすのがアルツハイマー型認知症です。
また、神経細胞が死滅してしまうと、脳そのものも萎縮してしまうので、脳の指令を受けている身体機能もだんだん失われていきます。
このタイプは、記憶障害、見当識障害、思考障害(もの盗られ妄想)などの症状がよく見られ、女性の患者数の割合が高いのも特徴です(男女比は1:2)。
脳血管型認知症
動脈硬化などを背景に脳血管が詰まったり、破れて出血するなどの脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血 など)を発症後、やがて脳細胞に十分な酸素が行き届かなくなって神経細胞が死ぬことによって起きる認知症です。
このタイプは、障害部位にのみ機能低下がみられるので、"まだら認知症"と呼ばれたり、一部の運動・感覚障害、情動失禁などの症状がよく見られます。
レビー小体型認知症
レビー小体というタンパク質が脳の大脳皮質の神経細胞を傷つけることで発症する認知症です。レビー小体は脳だけでなく全身の神経細胞にもあらわれ、パーキンソン病では脳幹にレビー小体が多くみられます。
レビー小体型認知症では、認知機能の低下だけでなく、幻視、妄想、パーキンソン症状(手足のふるえ、動作緩慢、筋肉のこわばりなど)、自律神経症状なども出現するのが特徴です。
検査について
良性健忘と認知症のもの忘れにはそれぞれ特徴がありますが、自己判断は禁物です。
当院では、もの忘れの症状が認知症かどうかの診療を行っています。
最初に問診として、記憶障害、認知機能障害、日常生活の支障や困難さなどの状態を、ご本人とご家族・介護者に確認します。
その後、神経心理学検査(知能、記憶検査 等)を行います。さらに医師が必要と判断すれば、外部医療機関と連携してCTやMRIなどの画像検査で脳の変化(萎縮)を確認するなどして、診断をつけます。
治療について
軽度認知障害や認知症と診断された場合は、症状に応じて進行を遅らせるための薬物治療が行われます。
認知症の周辺症状に対しては、患者さんにとってストレスを減らすための環境づくり(非薬物療法)が最も大切です。
非薬物療法には、ご本人の訴えを傾聴すること、睡眠リズムを整えること、適度に体を動かすことなどがあります。
そのほか、音楽セラピー、絵画セラピー、動物セラピーなどを取り入れることも効果的です。
非薬物療法でも症状が改善しない場合には、不安、抑うつ、神経の高ぶりなどを和らげるお薬を使うこともあります。
認知症やその周辺症状は、適切な対処や治療により症状が緩和されご本人が穏やかに生活でき、同時にご家族や介護者の負担も軽くなることが期待されますので、お悩みのことがありましたらぜひお気軽にご相談ください。